展覧会概要
2024/3/17〜2024/5/12 13:00〜18:00 土日祝オープン

コウミユキ(web site
美術/彫刻ユニット。京都府拠点。
「変身」や「野生」をテーマに、自然の美しさや、野生に備わる荒々しい美を喚起するような作品を制作している美術/膨刻ユニットです。
これまでに、野生の動物をモチーフとした彫刻作品や、白い毛並みをもつ動物(アニマル)の姿で行うパフォーマンスを発表してきました。


展覧会構成
この展覧会で中心となっている「Stand Up!」シリーズには、お座りの姿勢で売られている既製品の犬の置物が使われています。これらは中古市場に出回っているのを作家が買い取ったものです。関節部分を壊し、組み直し、角材による背骨や義足を得て成立している立ち上がった姿勢は、痛々しいながらもどこか滑稽であると同時に、力強く荒々しい生命力を表しています。大量生産によって従順な表情をしている犬たちの顔は、変身のためのマスクとしての粘土の造形が施されています。また、組み直された部分や、垂れ下がった尻尾をいきいきと立ち上がらせているところにも、同様の手法をみることができます。そしてよく見ると、細かな毛が風に揺られているのを確認できます。あら、こんなところに、と思うようなところにグリッターが施されているのも楽しく発見できます。
犬たちは、太陽の光の元に立ち上がっており、壁面には以前お座りしていた頃の姿が星になってゆくところが映し出されている、そんな展示構成となっています。壁面に移されるプロジェクターの光は大小10個のホーローボウルに張られた水に反射したもので、水には犬の置物の欠片が沈められており、いったん壊れて生まれ変わる過程を感じさせます。
入口から進んで会場の深部に入ると、「Bubble Spinner」が作動し、シャボン玉がふわふわと漂うなか、作品を眺めることができます。天井から吊るされているドローイング、読み物「かけてあげる、アイリス」、そして棚のちいさな「Stund Up!」、「け石」、に囲まれることとなります。読み物には作家の体験に基づいた物語が記されており、鑑賞者はより深く、作家の作品世界に足を踏み入れることになるのでした。


夜明けまではお湯より「アイリス、宙に咲く」に寄せて
シャボン玉がわーっと吹き出されて、ふらふら飛ばされていって、ぱちん、ぱちん、と音を立てて破裂した。プロジェクターからの映像を反射する水面に、シャボン玉がバウンド。ぽよん、ぱちん。お風呂の途中のような犬たち。しゅわしゅわもっちりな泡のことを思い浮かべてみると、生まれて消えて、生まれて消えて、それって触ると溶けてなくなる雪のような、かがやく切なさで、まぶたが緊張する。
宙で風に揺られているドローイングには、あの頃と今の間が描かれていました。おすわりしていたあの頃のことだけどさ、ずっと遠くに行ってしまったみたい。
目の中で星屑が砕けて弾けるような経験は、私にはなくって、想像してみるけど、わからない。だいぶ違うけど、世界がモノクロからカラーに切り替わったあの瞬間のことを思い出した。目の中(私の中)で起きていることは、とてもよく見える。あのときのあのイメージは、ベールを突き破るように強烈な、鮮明なイメージ。なんか思った。生きていけそう、って。
がんじがらめにされて動けなくなっている仲間を探し出し、すくい上げておまじないをかける。頼もしく立ち上がった仲間の隣に立つ。そんなように表現してみるけど、私の中で芽吹く言葉は、表現したとたんに頼りなく思える。だけど、何度も試みる。
生命は、あらゆるレッテルから無関係で、静かにかがやきで充たされているだけで良いはずなのに、私たち人間はそういうわけにもいかないようだ。コウミユキの芸術作品が提示するのは、全ての光を集め直し、白光し始める生命といえるものです。そこには生き抜くことの困難もよろこびも、勇気も、見つけることができるでしょう。ベールを突き破るように強烈な、鮮明な白さで。こうして生きようと、決めたのだ。
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