にしむらかすみ「くちなわ」インタビュー/聞き手:夜明けまではお湯

ー「くちなわ」着想のきっかけはなんですか?
偶然訪れたイベントで縄文時代からの蛇信仰の講演を聞いて惹かれました。
ー蛇信仰のどんなところに惹かれましたか?
蛇は恐怖の対象になるけど、それは人間が猿だったころの記憶によるものらしいんです。私も蛇は好きではない。蛇は人間にとって身近な存在であり、その不思議な生態により良くも悪くも信仰の対象や象徴として存在しており、そこが面白いと思った。いろいろ調べるうちにハマったんです。
ー蛇の動きとポールダンスは通じるものがありますね。
そうですね。
ー衣装、音楽、映像、振付すべて制作されましたが、まず、衣装はどのように作られましたか?
ウロコのような黒いアンティーク着物をリメイクして使いました。死をイメージさせたかったので、ポールダンスにぎりぎり支障にならない長さと仕様にしました。着物の下は、脱いでからは映像が衣装になるようにベージュのレオタードにしました。メイクは眉を消して、ヌルヌルした感じにみせたかった。髪もウエットな感じにセットしました。
ー音楽はどのように作りましたか?
自然の中に居るような錯覚をおこさせたかったから、山で環境音を録音しました。木々の音、鳥のさえずり、水が流れる音、自分が這ってズリズリいう音も録音しました。自分の声を楽器として使って、言葉になる前の身体から湧き上がってくる声を使いたいと思いました。はじめは声を入れるつもりはなかったけど、入れたら全体が締まったんです。スマホアプリの機械音を使ってミックスしたから楽器の音が無機質で、それを乱すのに声は有効だったなと思う。
ー映像はどのように作りましたか?
オープニングは蛇が這っているところですが、あとはほとんど水面です。これもスマホアプリを使って制作しました。水面にしたのはずっと見ていたらウロコのように見えてきて、身体に映したいと思ったからです。
ー振付はどのように考えましたか?
技の順番、音楽とのタイミングだけだいたい決めて、あとは即興でやりました。死にかけの人間が蛇に祈りを捧げるなかで夢想する輪廻転生を表現したかった。ポールダンスとしての美は追求せず、つま先を伸ばさなかったり、型を無視した。体力の限界に挑んで、力強さを全面に押し出しました。
ー輪廻転生と力強さはどのように繋がるのでしょうか?
死にかけている状態で生を祈るのは力強いこと。感じにくくなっている恐怖を思い起こさせたかった。
ーその恐怖は冒頭の、人間が猿だったころの記憶にまつわる恐怖のことなのかなと思うのですが、その恐怖を、にしむらさんはどのように体験されてきましたか?
そうですね・・・。私は登山もするんですが、山に行くと自然に飲み込まれるような感じがします。忘れてはいけない「恐怖」を確かめに山に行っているような・・・。山に入るようになったのは二十歳くらいのときに六甲山を登ったのがはじまりで、愛宕山をひとりで登って、その時にめちゃくちゃ怖かったんです。暗いわけでも鬱蒼としているわけでもなかったけど、すごく怖くて、それは「必要な恐怖」だと思った。東北の震災のときに、テレビで津波の映像をみたときに感じたのと似たような恐怖。「必要な恐怖」は常に持っていたい。
ー今回のオドリで目指したのはどのようなことですか?
誰も見たことのないものになりたかった。未知のもの、潜んでいるもの、実態のないもの、そういったものに対する恐怖そのものを体現したかった。私は恐怖に魅入られているのかもしれません。
ー輪廻転生があるとして、人間に生まれ変わりたいですか?
人間には生まれ変わりたくないです。蛇は嫌いだけど、生まれ変わるのはオッケーです。
ー公演おつかれさまでした。ありがとうございました。
ありがとうございました。
イベント概要
ポールダンスショウ にしむらかすみ「くちなわ」
●第一公演 5月25日(土) 19:00から
●第二公演 5月26日(日) 16:00から
●第三公演 5月26日(日) 19:00から 
《入場料 400円》

にしむらかすみ/アーティスト
京都府出身 銅駝美術工芸高等学校卒業
●2014年京展彫刻部門入選
●2019年「西村佳純 個展」GalleryTake two
●2019年「女の形」アスタルテ書房

きもちわるくて
うつくしくて
からめとられてしまう
なまあたたかくてちみつな野生
このたび夜明けまではお湯では、にしむらかすみによる、ポールを使ったオドリを上演いたします。にしむらかすみはこれまで、人体をモチーフにした立体造形を経験し、美術モデルとして活動するうちに身体表現にのめりこむようになりました。着想を得たとき、彼女にとって立体造形は「自分自身から切り離し、発散して表現すること」でしたが、身体表現によってむしろ「自分自身の肉体に内包し、集めて表現すること」に辿り着こうとします。なかでも空中で肉体を造形するポール・ダンスに惹かれた彼女は、より自由でいたいと願っています。
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