SPECIAL EXHIBITION
井上舞 個展「hole」
2025/4/5,6,12,13, 19,20,26,27,29
13:30~16:30
このたび夜明けまではお湯では、井上舞の初個展『hole』を開催します。
井上の具象彫刻は、現在形で「内面を見つめている」彫刻と言えそうだと私は思います。
「内面を見つめている」、その現在形を彫刻するというのはどういうことでしょうか。「いま、見つめているところ」。どこかを眺めているような作品を私達は安易に想像するけれど、彫刻の内側でぐるぐると視線が動き回っている、あるいはバタバタと駆け回っている、じわじわと広がっている、その軌跡で編むことのように思えます。まるで、塑像の制作過程そのもの、というか。
「内面を見つめる」のはとても重いことです。少なくとも私にとってはそうです。そして、本人がどう感じるかはさておき、芸術作品をつくることの労力は膨大なものでしょう。
「内面を見つめる」、それを「前に進む」力、生きる原動力にする、そんな動き方で、崩れ落ちそうになりながら生き続ける、彼女の作品は、そんな具象彫刻、のような気がします。

【アーティスト・ステートメント】
穴(hole)というテーマに向き合い、さまざまなエピソードや物語をもとに制作した作品を展示します。
穴は単なる空間の欠落を超え、隠された場所としての神秘性や発見の場としての緊張感、さらに内面的な探求や喪失感を象徴するものとして多様な解釈を孕んでいます。
この展示空間に足を踏み入れるにあたり、各作品が語る穴にまつわる物語に耳をすませていただけると嬉しいです。物語に登場する穴は時に我々の存在を問い、隠れた想念や傷を浮き彫りにするものでもあります。今回の展示では見る人それぞれが、自身の傍に潜む穴の存在を見つめ直す機会となれば幸いです。

井上 舞(INOUE Mai) 
1995年 京都府 生まれ
2019年 広島市立大学 芸術学部 彫刻専攻 卒業
2021年 広島市立大学大学院 芸術学研究科 造形芸術専攻 博士前期課程 修了

《展覧会》
2019年 彫刻の五・七・五 那覇市 
2020年 小豆島三都半島アートプロジェクト 三都半島

受賞》
2018年 医療法人 清風会 芸術奨励作品展 芸術奨励 買上賞 広島市
2020年 AAC立体アートコンペ 入選
2021年 広島市立大学 卒業・修了作品展 修了制作優秀賞 広島市
2023年 バーチャルギャラリーみんなの美術展 みなーと大賞
2023年 堺市展 芸術新人賞 堺商工会議所会頭賞 堺市
2024年 丹波アートコンペティション 優秀賞 新人賞 丹波市

私は他人や自分の言動に隠れている深層心理について興味があり、それについて制作をおこなっています。 普段の生活の中で自分自身の言動が時に矛盾していて、なんであんな言動をしたんだろうとふと思う時がありました。以前はそれが分からないままもやもやしていましたが、心理学を勉強し始めて自分が思っていた疑問が解決されて いくのを嬉しく思いました。それがきっかけで今では心理学を学びながら制作をしています。私にとって制作は自分の疑問を解決するきっかけやまたそれを形として昇華する手段になってくれているのです。
私たちは、自分はこうありたい・こうであってほしい、そう思う中で無意識に記憶や欲求を抑圧したりしているのではないかと私は思うときがあります。なので、私にとって自分に向き合うことは自分が見たくないものを見ることになるのではないかと考えています。だから私が制作した人物像のなかには苦しい表情をしているものがあります。 でも、それは本当の意味で自分が前を見るために必要なことであり、自分を受け入れることにつながるんじゃないかと私は思っています。

【作家インタビュー 展覧会を終えて】話し手:井上舞、聞き手:夜明けまではお湯
夜明けまではお湯(以下、夜明け):顔を作り始めたきっかけは何ですか? 
井上:まだ私が実家に住んでいた頃、ときどき母の友達が家に遊びに来ていました。その人は元々容姿端麗な女性というイメージがあったのですが、ある時会った際には全然違う人に見えたのです。目は焦点が合わずおどおどした様子で、話す内容もよくわからないというか、同じ内容を繰り返し話し続けていました。その様子がとても強く印象に残って、人の顔に興味を持つようになり、作品として作り始めました。
夜明け:人物像はその女性の印象を喚起させる人をモデルにしているのですか?
井上:そうですね。人の精神は揺れ動くものだという緊張感にすごく魅力を感じています。
夜明け:人物像とは対照的に平面作品は静かな感じがしますね。
井上:平面作品は人物像を作る時と同じ様な気持ちで描いていますが、「怖い」と言われがちな人物像の印象を平面作品でやわらげたいという想いがあります。「怖い」と言われるのは嬉しくもあるんですが、そればかりになるのもな、と、かなり悩みながら作っています。
夜明け:壁に貼ってある文章は人物像それぞれの物語なのでしょうか?
井上:そうであったりなかったりです。どれが誰の物語、というわけではないんです。一人の人の中にはたくさんの物語が混在していると私は思っていて、それは本人が意識していないものもあると思います。人物像を作る際のテーマとして、色んな不安だったり葛藤みたいなものがあって、そのたくさんの色々な物語をとにかく書いた、という感じです。私の中にも、例えば、作品を観てほしいとか伝えたいとかそういう気持ちとそうじゃない気持ちが混在していて、モヤモヤしてすっきり整理されないまま生きている、という気がします。今回の展示は結果的にそのことがそのまま表現されたな、と思います。
夜明け:最後に「hole」に込めた意味を教えて下さい。
井上:展覧会タイトルの「hole」という言葉は、私がなんとなくずっと自分の作品に対して感じてきたことです。ごくふつーに生きていて、突然穴に落っこちることってあると思いますし、それに近い経験をすることもあると思います。だけどそれって「悪いこと」「最悪な状況」というだけ、なわけじゃなくて、「hole」を通じてお互いわかり合ったり気づかない景色や気持ちに気付くことがある気がしています。人の心は揺れ動くもので、穴に落っこちたときにそれは明確に形を持って現れてくる、そんなことを思っています。
(2025.04.29)


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